いとしいあなたに幸福を
「……殺して、やるっ…」

独り言のように小さく、しかしはっきりと悠梨がそう呟いた。

「っ悠梨、止せっ!こんな奴のためにお前が手を汚す必要なんかない!!」

周が咄嗟に制止するが、悠梨は大きくかぶりを振った。

「いやだっ!あいつが俺たちから全てを奪ったようにっ…俺があいつを殺してやる!!」

「くく…っお前たちの両親は力尽きる直前まで、実に私に反抗的だったよ」

「!」

どきりと心臓が跳ね上がった。

両親の死――それは今まで愛梨の中で曖昧なままであった真実。

たった今、その事実の全てを知る架々見にはっきりと明言されてしまった。

「二人共、お前たちを誘き出すために協力すると言えば命は助けてやったものを…折角の提案を無下にして無様な死を遂げた」

両親は、この男の手に掛かって死んだのだと。

「そういえばあのとき連れていた連中は、高値で売れると言って死体から髪と眼を剥ぎ取っていたか。父親には何人か手痛い反撃を喰らっていたからな、死んだ後にも散々甚振(いたぶ)ってやったが」

「て、めえっ…!!」

「ああ。それから、母親の死体には他の使い道もあったな。多少薹(とう)が立ってはいたが、鬱憤の溜まった野郎の捌け口には丁度良かったらしい」

「お兄ちゃん、やめてっ!」

それは思わず耳を塞ぎたくなる内容だったが、愛梨は激昂して今にも飛び出してしまいそうな悠梨の腕に必死でしがみ付いた。

「くっく…そんなに両親が恋しいか。ならさっさと殺してやれば良かったな?そうすれば死んだ二人にもすぐ逢えただろうに」
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