いとしいあなたに幸福を
すると、悠梨が震える周の腕を半ば強引に掴んで思い切り首を振った。

「周っ!お前が今までどれだけ頑張ってきて、どれだけ苦しんでるかなんてそいつに理解出来る筈ない!!お前のことは俺や愛梨が全部、ちゃんと解ってるっ…だからそんな奴の言葉なんかに耳を貸すな!!」

「悠梨…」

「ふん、餓鬼同士で仲良く友達ごっこか。下らなくて返吐が出るな」

「――貴方は」

互いを案じる兄と周の姿を侮蔑する架々見に、ふと思わず言葉が出た。

「貴方は人を見下したり奪ったりすることしか出来ないから、解らないのね…自分と同じくらい――自分のことよりも大切にしたい相手がいるひとの気持ちが」

我が身可愛さばかりが先立ち、他人を卑下し利用することしか考えられない。

それが孤独であることには、気が付けないまま。

――そんな風にしか物事を捉えられないなんて、とても可哀想な人間だと思った。

しかし両親や故郷を奪ったこの男に、同情する気など一切起こらない。

「人の痛みが解らない貴方に、私の大切なひとたちを笑う権利なんてない…!」

愛梨はそう言い放つと、真っ直ぐに架々見を視線で射抜いた。

「くくっ…まさか愛梨にまで噛み付かれるとはな。周囲に守られているだけの、か弱い小娘かと思っていたが…」

「お前なんかに俺の妹の強さが解って堪るか…!!」

「益々気に入ったよ、愛梨。お前のその気丈な心をへし折るという、愉しみが一つ増えた」

「…っの、下衆野郎…!!」

周は再び身構え掛けたが、ふと何かに気が付いたように窓の外を振り向いた。
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