いとしいあなたに幸福を
「…だめなの?」

愛梨はまだ、十四だ。

この先きっと、誰かと恋をする。

そんな日はいつまでも来ないで欲しいとは思いつつ――ずっと京の傍に縛っておく訳にもいかない。

「けれど周様、ゆくゆくは京様のためにも再婚をお考えでしょう?愛ちゃんなら京様も懐かれておりますし…」

「俺は、再婚しないよ」

確かに京のことを考えれば母親は必要なのかも知れない。

しかし京は少々人見知りが激しい為、急に知らない人間を継母として受け入れるのは難しいかも知れない。

京は跡取りとして、誰が見ても申し分ない血筋の子だからもう相手の身分に深く拘る必要もない。

だが、再婚してしまったら、都を裏切ることになる気がする。

それに俺は、まだ――

「愛ちゃんには今の話するなよ?こんな話聞かせたら困らせちまう」

愛梨は優しいから、京のために自分と一緒になってもいい、と言ってくれてしまうかも知れない。

そんなのは、自分にとって都合が良過ぎる。

「あの子ならきっと、いい相手が見付かるよ。愛ちゃんは最近、益々綺麗になってきたし気立てもいい。俺みたいな、子持ちの既婚者の傍にいつまでもいさせたら可哀想だ」

「でも、周様…」

「何よりそんなことさせたら、悠梨にぶん殴られるのが目に見えてるだろ」

…今度は、一発じゃ済まなくなるだろうな。
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