いとしいあなたに幸福を
京に腕を引かれてやってきたのは、邸の庭だった。

良くこの辺りで愛梨と京が遊んでいるのを、周は仕事部屋の窓から見掛けている。

――京の言う通り、愛梨は其処にいた。

こちらには気付いていないようで、ぼんやりと立ったまま頭上を見上げている。

何を、見ているんだろう。

「あいちゃん!」

京が名前を叫ぶと、愛梨は驚いてこちらを振り向いた。

「!京くん、周さん…」

すると京は愛梨に駆け寄って、彼女の足元に思い切り抱き付いた。

「…愛ちゃん」

傍まで歩み寄ると、愛梨は俯きがちに困ったような笑顔を浮かべた。

目元が少し赤く腫れている、まだ泣いていたのだろうか?

「……愛ちゃん、さっき何を見てたんだ?」

言葉に窮して当たり障りのなさそうな話題を投げ掛けてみたが、愛梨は小さく首を振っただけで答えなかった。

「とーしゃまのおへや」

すると愛梨の代わりに、京が満面の笑顔で答えた。

「!京くんっ…」

「…俺の?仕事部屋か?」
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