いとしいあなたに幸福を
「愛ちゃん、俺はっ…」

――俺も、君が好きだ。

そう言って愛梨を抱き締めてあげられたら、どんなにいいだろう。

素直になれればどんなに楽だろう。

だけど、それじゃ君のためにならないんだ。

君に好きだと言われて、心底嬉しい。

君が好きだから、君の想いには応えられない。

「…愛ちゃん、ごめん」

胸が痛むのを堪えてそう告げると、愛梨は笑って頷いた。

「……わたしこそ、困らせてしまってすみません。今わたしが言ったこと…忘れてください」

すると京が、心配げに愛梨の顔を見上げて声を上げる。

「…あいちゃん?」

「京くん、わたしのこと心配してくれたのね。ありがとう」

愛梨は屈み込んで、京の小さな身体を優しく抱き締めた。

そのとき愛梨がこそりと涙を拭ったことに、周は気が付いた。

ああ、また泣かせちまった…――


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