いとしいあなたに幸福を
「――悠梨、ごめん」

顔を鉢合わせるなり、唐突に目の前で深々と頭を下げられた悠梨は、意味が解らず首を傾げた。

「…何のことだ?」

「っ愛ちゃんの気持ちに、今まで全然気が付けなくて。そのせいで、彼女を苦しませちまってたことだよ」

「!」

ゆっくりと顔を上げた周に、悠梨は思わず責め立てるように詰め寄った。

「お前…っまさか、愛梨に何て言ったんだよ…!!」

「…断ったよ。彼女は俺なんかの相手には勿体ないし、不幸にさせちまうだろうからな」

伏し目がちに笑いながらそう告げられ、咄嗟に掴んでいた周の胸倉からゆっくりと手を外した。

「っ……そうか」

「そのせいでまた、あの子を泣かせてしまったんだ。お前の大切な妹を何度も泣かせちまって、ごめん」

「…お前にその気がないんだったら、はっきり断ってくれて良かったよ。あいつもそれなら、いずれ踏ん切りがつくだろ」

「ややこしい家柄の子持ちの既婚者のことなんか好きになってくれるような子は、そうそういないだろうけどな…他に好きな奴が出来たら、俺なんかどうでも良くなるさ」

違うよ、周。

愛梨はお前のことが、もっとずっと前から好きなんだ。

お前が知り得ないところでも、愛梨はお前のことを想って沢山泣いていた。

自分の想いが叶わないことも、お前に知られないことも理解しながら、長年お前のことを好きでいた。

きっと愛梨は、そう簡単にお前のことを忘れたりは出来ない――
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