いとしいあなたに幸福を
01 遠雷-えんらい-
――春雷の国の、都心から少し離れた郊外。
小さな集落が点在する其処には、古くから風を操る魔力を持つ一族が暮らしている。
髪は空に瞬く、星の光と同じ銀。
瞳は薔薇や桜の花弁のような真紅や薄紅色。
肌は淡雪のように白く、髪色と相俟って儚げな印象を与える。
他国からも美しいと評判のその色彩に見合ってか、一族には、男女共に整った容貌の持ち主が多い。
温厚な風使いたちは争いを好まず、ひっそりと暮らしていた。
――そのため都市部の発展を支えているのは、風使いの一族から派生した霊媒師の力を持つ者たちだった。
魔力を持たない代わりに様々な霊や魂と心を通わせる彼らは風使いたちよりも社交的で、春雷の街を栄えさせるために尽力した。
だが国の繁栄との代償に、異種族との交わりにより春雷の住民たちから徐々に特有の色彩は失われていった。
それ故に、美しい色彩を保つ風使いの色彩はこれまで以上に珍重されるようになった。
しかし、そのことが彼ら風使いたちに不穏な影が忍び寄る起因となる――