いとしいあなたに幸福を
「おに…い…ちゃ……さむい…」

悠梨は咄嗟に妹の身体を抱き締めた。

その身体は、悠梨よりも熱い。

なのに本人は寒がってかたかたと震えている。

「くそっ…早くしないと、もっと熱が上がっちまう…」

一刻も早く街に行きたい。

しかしまだ雨は止みそうにもない。

だがこんな状態の妹を連れて此処から出るなんて、尚更考えられない。

今もし追手がやってきたら。

そんなことを考えていた矢先、ゆっくりとこちらに近付く数人の足音が聴こえてきた。

「…!」

愛梨のことで気が動転して、物音に気付くのが遅れた。

足音はこの穴を取り囲むように、すぐ傍まで近付いてきている。

「漸く見つけたぞ、子兎どもぉ」

見覚えのある男が穴の中まで這い入ってきた。

悠梨たちの家を襲った――父と母を手に掛けた男だ。

「周りは俺たちの仲間が取り囲んでいる…逃げ場は何処にもないぞ」

「くっ…」
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