いとしいあなたに幸福を
――初めて逢ったその日に、周には婚約者がいると知った。

たとえ、まだ婚約が決まっていなかったとしても手が届く筈のない相手だと解り切っていたのに。

「ついさっきまで俺は、君は俺以外の誰かと一緒になるんだろうと考えてた……だけど陽司が君の傍にいるのを見ただけで、自分でも呆れるくらい陽司に嫉妬したんだ…!君を他の誰かになんか、渡したくない…!!」

「周さん、でも…」

ふと脳裏を過ったのは、都の笑顔だった。

「都のこと、か…?」

胸中を見透かされたかのように、周の言葉が掛かる。

「俺は…再婚することで都を裏切ってしまう気がしてた。だけど…都は多分俺のことを心配してるよ。都のことを理由に、君や自分の気持ちと向き合うことから逃げるなと叱られるかも知れないな」

都は、周の気持ちに気が付いていたのだろうか。

ゆっくり言葉を交わせたのは一度だけだったが、あのとき都は自身の死期を予見しているような口振りだった。

だとしたら都は、あのとき愛梨に何を伝えたかったのだろう。

「…都を忘れる訳じゃない。君を都の身代わりにする訳じゃない。一度突き放した癖に、今更遅いのかも知れないけど…っ俺は、これからずっと、京が大きくなってからもずっと、君に傍にいて欲しいんだ…!!」

――わたしも。

わたしもあなたの傍に、いたい。

ずっとずっと、傍にいさせて欲しい。

「周さん…」

それで、いいのだろうか。

「わたし、周さんの傍にいたいがために京くんの母親を恋しがる気持ちを利用してたんですよ…?周さんの迷惑も考えずに、ずっと気持ちを引き摺ってっ……それでもいいんですか…?」
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