いとしいあなたに幸福を
「……ぅ、…ん…」

「ん?妹は弱ってるなあ、可哀想に」

目敏(めざと)い男は苦しげな妹の様子に気が付き、悠梨を蔑むように憫笑した。

「お前がこんな寒い雨の中を連れ回さなければ、妹は苦しまずに済んだのになあ…ほら、早く医者に診せてやりたいだろう?」

男は手を差し出すと、悠梨の心を揺さぶるように猫撫で声で囁いた。

「なに、俺たちは優しいんだ。抵抗さえしなけりゃ手荒なことは何もしないさ」

確かに此処で抵抗しても、消耗し切っている悠梨に勝ち目など万に一つもない。

奴らの一番の目的は、妹だ――下手をすれば隙を突かれて妹を奪われ、自分は殺されるかも知れない。

今は大人しく、相手の言うことを聞くふりをしたほうが得策だろうか。

「…おにぃ、ちゃん……だめ…」

すると、愛梨が消え入るような声を上げてかぶりを振った。

「…!」

――駄目だ。

愛梨をあの架々見の元へ連れて行かれる訳には行かない。

だったら此処で二人一緒に死んだほうがいい。

だけど、こんなところで妹を死なせて絶対になるものか。

「…どうした?」

俯いたまま動かない悠梨に、訝しんだ男が訊ねた。
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