いとしいあなたに幸福を

12 涼風-すずかぜ-

――あれから。

愛梨の身辺は、少しずつ変化していった。

周が愛梨を再婚相手とすることを公表し、姓は鈴代から霊奈に変わった。

真偽は不明だが、陽司の報告に依れば領主が下働きの娘を再婚相手として娶ったことに対し、国民は概ね好意的らしい。

それから、今まで気軽に渾名で呼んでくれていた周囲の人々からは少し照れ臭そうに“奥様”と呼ばれるようになった。

様々なことを考慮した結果――国中を挙げての式典などは開催しないことになったのだが、領主の再婚発表を受けた街では大きな祭典が開催された。

邸でも、今日まで周と愛梨には内緒で邸仕えの者たちや周の部下たちが協力し合って、祝賀会を開いてくれて。

皆、周と愛梨のことを盛大に祝福してくれて、特に愛梨と仲の良かった朔良などは泣いて喜んでいた。

でも誰よりも一番、愛梨を待っていてくれたのは――



「かあさん、とうさん…おやすみなさい」

嬉しそうに微笑んだ京が、その空色の眼に愛梨と周の姿を映した。

まだ少し慣れない呼ばれ方に、愛梨は照れ笑いを浮かべながら柔らかな金の髪を撫でる。

「おやすみなさい、京くん」

「おやすみ、京。いい夢が見られますように」

次いで、そう告げた周が京の額に唇を落とす。

布団へ入る前から眠たそうに船を漕いでいた京は、二人でゆっくりと頬や頭を撫でているうちにすぐ眠ってしまった。

「…今夜はずっとご機嫌ではしゃいでたからな、疲れたんだろ」
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