いとしいあなたに幸福を
「…どうした?」

浮かない表情で俯きがちになっていたせいか、周が心配げな声色と面持ちで愛梨の顔を覗き込んできた。

「っ……」

周の顔が間近に迫り、思わず赤面してしまう。

「顔、赤いな。少し酔ったか?」

くすりと笑みを零した周の掌に、頬をそっと撫でられた。

ほんの少しだけ、ふわりと煙草の残り香が鼻を擽(くすぐ)る。

「は…はい、余り強くないのに今日は皆さんにお祝いして貰えたから何だか嬉しくって」

周を心配させたくなくて、咄嗟にそう口にした。

事実、飲酒を許される十六歳になったばかりの自分は、まだ酒に余り慣れていない。

「……あいつらも大概、はしゃぎ過ぎだけどな」

階下の大広間では、主役二人が不在となった今も宴会の雰囲気に突入した喧騒に包まれている。

「周さんが嬉しそうだから、皆さんも嬉しいんですよ。わたしも…そうですから」

「愛ちゃ……、…」

周はいつものように自分の愛称を口にし掛けて、ふと言葉を切った。

「…何か、調子狂うな」

「そ…そうです、ね」

愛梨は周から「もう敬語を使わなくていい」と言われていたのだが、結局のところ互いにまだぎこちないままだ。
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