いとしいあなたに幸福を
周は照れくさそうに自身の髪を掻き回すと、愛梨の手を引いて立ち上がった。

そのまま周に連れられ、部屋の窓から庭に面した大きな露台へと移動する。

大広間から賑やかなざわめきが微かに聴こえる夜空には、大きな月が浮かんでいた。

「……式、本当に挙げなくて良かったか?俺は正直、架々見のことがあったから君を余り人目に晒したくなかったんだ。正式な式典を開くとなると、他国から大勢の客も来るしで…」

とはいえ愛梨にとっては大切な晴れの舞台なのに、と周は決断するまでにかなり悩んでいた。

「はい、私もまだきっとお客様相手に上手く立ち回れないでしょうし…私はこうして、お邸の皆さんにお祝いして頂けただけで十分ですよ」

「そっか…でも、君の花嫁姿はきっと綺麗だったろうなあ。悠梨も、それが見たかったから余計ふて腐れてんじゃないか」

「えっと…」

否めない点もあるが、実際どうなのだろう。

「まあ陽司たちの言う通り、区切りがはっきりしないのは良くないよな…」

「えっ」

ふと独り言のようにそう呟いて、周はもう一度愛梨の頬を撫でた。

そのまま指先でゆっくりと唇をなぞられる。

「…愛梨」

「!」

低く優しげな声で名を囁かれ、どきりと胸が高鳴った。

柘榴石のように紅い眼を真っ直ぐ見つめると、周は少し困ったように苦笑する。

「こんなに真っ白で綺麗な君を、本当に俺のものにしちまっていいのかって…未だに躊躇(ためら)ってる」
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