いとしいあなたに幸福を
「父さん!」

京が弾むようにこちらへと駆け寄ってきたので、周は息子を抱き上げてその頬に口付けた。

「京、ただいま」

「おかえりなさぁい」

飼い主にじゃれ付く仔犬のように、京は周の腕に頬を擦り寄せる。

久々の対面が嬉しいのは京も同じらしく、相当はしゃいでいるようだ。

「随分甘えん坊だなあ。ちびが生まれたらちゃんと兄ちゃんになれるのか?」

「うんっ!」

元気良く返答する京の頭を撫でながら、周は愛梨の傍に膝を着く。

そして愛梨の手を取ると、指輪の填まった薬指に口付けた。

「ただいま、愛梨」

「おかえりなさい、あなた」

つと顔を上げると、柔和な表情を含んだ薄紅色の眼がこちらを見つめている。

「ちびの調子、どうだった?昨日は検診の日だったろ」

周はそう言って、愛梨のお腹をそっと撫でてやった。

すると傍らの京が「ぜんぜんうごかないんだよ、おひるねしてるのかな?」と不満げに言うので、周は思わず苦笑する。

「お医者様は順調だって仰ってたわ。安定期に入るまで安静にって言われたけど、今のところあんまり悪阻もないし何だかじっとしてるほうが落ち着かないの」

使用人時代の癖が抜けず、周囲で働く者たちの手伝いをしようとした前科が何度かあるだけに、愛梨は少し寂しげにそう呟いた。
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