いとしいあなたに幸福を
「愛梨が働き者なのは解ってるけど、もう無理はするなよ?今はもう俺の奥さんなんだし、一人の身体じゃないんだしな」

「馬鹿言え、愛梨は俺の妹だ」

瞬間、いつの間にか現れた悠梨が突如二人の間に割って入ってきた。

「お兄ちゃん」

「悠梨」

「俺が許したのは、愛梨が京の母親になることだけだぞ。誰がいつ、お前にやるだなんて言った?」

「うるせーぞ兄馬鹿、お前も早く恋人見つけて妹離れしろ!」

「愛梨以上に大切な女なんか存在するかよ。俺は、またお前が愛梨を泣かせないようにずっと傍で見張ってやる」

悠梨の周に対する言動は、最近以前にも増してきつくなった。

しかし周も愛梨も、その真意はきちんと解っている。

「ねぇお兄ちゃん、また一週間くらい姿が見えなかったけど…何処に行ってたの?」

「ん?ちょっと長めの散歩だな」

愛梨が結婚してから、悠梨は突然ふらりといなくなることが多くなった。

当初は悠梨が姿を消したことに邸中が大騒ぎになったのだが、当の本人は何食わぬ顔で帰ってきたのだ。

曰く、愛梨が領主夫人となったことで使用人として働かなくてもいいことになってしまい、何もせず邸に留まっているのは居た堪れないそうだが。

「ね、ゆりくん」

「何だ、京」

「ゆりくん、父さんのそばにいってたんでしょ」
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