いとしいあなたに幸福を
「二十一にもなって野郎に可愛いとか形容されるほうが不気味だろが。まあ悠梨は、昔から未だに女に間違われるから解らないのかも知れないけど」

「おい周、俺より身長低い癖に調子に乗るなよ?十代の頃、絶対に抜かしてやるとか散々息巻いてたのに、結局は俺を抜かせなかったんだからな」

「あなた、お兄ちゃん」

次第に大人気ない遣り取りに発展してきてしまったところで、苦笑いを浮かべた愛梨の声に制止された。

「それより二人が帰ってきたら話そうと思ってたことがあるの、聞いてくれる?」

「「話したいこと?」」

思わず悠梨と同時にそう問い返してしまい少々ばつが悪かったが、愛梨は楽しげに笑った。

「この子の、名前のこと」

愛梨はいとおしげに自身の腹部に手を添えた。

――愛梨の胎内に宿ったばかりの小さな命は、まだ男か女か医学的には判明していない。

京は相変わらず弟だよ、との一点張りだが。

「どんな名前がいいかなってわたしと京くんで考えてるの…いいかしら」

「名前か…少し気が早い気もするけどなあ」

「だって父さん、ぼく、おとうとがでてくるのまちきれないんだ」

京はそう言って愛梨のお腹にぺたりと寄り添いながら、嬉しそうに微笑んだ。

「はやくでておいで。そしたらぼくといっぱいあそぼうね」

京の髪を撫でながら、愛梨は周と悠梨の顔を見上げる。

「この子は…わたしとあなたと京くん、それにお兄ちゃんを本当の家族として結び付けてくれる子だから。そんな名前を付けたいなって思ってて」
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