いとしいあなたに幸福を
「悠梨くんも出産に立合えば良かったのに。周様と愛ちゃんから誘われてたんだろ?京様なんて、自分から立候補してたくらいだし」

「…いや、流石に悪いです。周たちは俺のことを家族だって言ってくれますけど…俺だってそのくらいの分別はついてますよ」

陽司は苦笑して、悠梨の肩を軽く叩いた。

「そうか…君は本当に周様のいい友人になってくれたよ。あの方と一番本音の言い合いが出来るのは君だもの」

「…周がいてくれたお陰で俺は本当に救われました。それだけでなく、妹を幸せにしてくれた。俺には、周がまた思い詰めないように接してやるくらいしか出来ないんです」

「十分だよ。有難う、悠梨くん。君のお陰で、周様も救われてるんだ。俺は勝手に君らの兄貴分になったつもりでいるからさ…早く君にも幸せになって欲しいと思ってるよ」

俺の、しあわせ。

「…俺は愛梨が幸せならいいですよ。それより、陽司さんこそ誰かいい人はいないんですか?」

「あー…俺、今傷心中だから」

「え?」

「……あのとき周様に遠慮しなければ良かったかな?」

「それって…」

一瞬問い質してみようかと思ったが、やっぱり止めた。

何も聞かなかったことにしよう。

――そのとき、扉の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。

「悠梨っ、陽司…!!」

次いで、扉を勢い良く開け放った周が、情けない程に裏返った声色で二人の名を叫んだ。

周の背後から、生まれたばかりの赤ん坊の元気な産声が溢れてくる。
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