いとしいあなたに幸福を
周は陽司を肘で軽く小突いてやると、気配のする方角へと走り出した。

陽司も苦笑しつつその後に続いた。

雨で煙った視界の中を駆け抜ける間にも、雨足はどんどん強まってゆく。

「やばいな、本格的に降り出してきたぞ」

撥水性のある外套を羽織ってはいるが、雨の雫は痛い程に打ち付ける。

「陽司、あれだ!」

視線の少し先に、誰か倒れている。

一人――いや、二人だ。

片方は頭から衣服を被っていて詳しくは判らないが、まだ子供らしい。

もう一人はその子を背負ったまま、倒れ伏していた。

「おい!大丈夫かっ!?」

周が駆け寄ると、子供を背にしたほうの人物が、ほんの少しだけ身動ぎした。

子供はぐったりとしたまま動かない。

「陽司!」

周が声を上げるのとほぼ同時に、陽司は持っていた傘を広げた。

まず背に乗ったままの子供を助け起こそうとすると、伸ばした手を不意に払い退かれた。

「!」

「さわ、るな…っ……!」
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