いとしいあなたに幸福を
子供を背負っている男――と言っても周と同じ年頃だろう――が、威嚇するようにこちらを睨み付けた。

少年は起き上がるのもやっとだろうに、子供を背にしたまま勢い良く立ち上がってふらついている。

「その子はお前の大切な子なのか?驚かせて悪かった」

「周様、彼は…」

「ああ。解ってる」

泥に塗(まみ)れて一見判り辛くはあったが、少年は美しい銀色の髪をしていた。

「あんたら、は…奴ら…仲間じゃ、ないのかっ……」

薄紅色の眼に敵意を込めたまま、少年は周と陽司に問い掛けた。

「奴ら?」

「俺たちを襲った奴らだ…っ!父さんと母さん…それにみんなをっ…」

纏う風の気配と髪や眼の彩り――やはり彼は、きっと南東の集落の生き残りだ。

「安心してくれ、俺たちは味方だ。君たちを助けに来たんだよ。君は南東の集落から逃げて来たんだろう?」

陽司の言葉に、少年は訝しむように首を捻った。

「なん、で…俺たちのことを、知ってるっ…?!」

「ばっ…陽司…!」

余計に警戒されるようなことを言うなよ、という言葉を周は咄嗟に飲み込んだ。

これ以上、怪しまれては彼らを保護することも儘ならない。

「――追い駆けっこは終わりだ、餓鬼共が…」
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