いとしいあなたに幸福を
「――若様っ、お待ちください若様!周(しゅう)様っ!!」
背後からしつこく呼び止められ、少年はぴたりと足を止めた。
その彼の付き人である青年が、息を切らせながらひと足遅れて立ち止まる。
「はあっ、はあ…やっと追い付いた……」
「だらしねえなあ、陽司(ようじ)。最近鈍ってんじゃねえの?」
少年から陽司と呼ばれた青年は、傍らでけらけらと笑う主人を少し恨めしげに見返した。
「いい加減になさってくださいっ!何度霊力の修練と学習の時間から逃げ出せば気が済むんです!!」
「部屋に閉じ籠ってうだうだ勉強したり、魔法の初歩ばっか繰り返してたって何も変わらないだろ?俺は外に出て、自分の目で物事を捉えたいんだ。それに…」
周の白金の髪が、風に流されてふわりと揺れる。
「もう修練なんかしなくたって、お前を出し抜くくらい簡単だしな」
次いで、緋色の瞳が悪戯っぽく輝いた。
「はあぁ…奥様に叱られるのは俺なんですよ?」
周の母――霊奈 厘(りん)は、この春雷の国の領主を務めている。
女性ながら男勝りと評価される手腕で評判の彼女が、四十半ばを超えてから授かった一粒種、それが周である。
父親は、周が生まれたときからいない。
周は一度だけ父親について訊ねたことがあるものの、厘が何も言わなかったため、訊いてはならないことなのだとそのとき理解した。
だからそれ以来、父親のことは訊かなかったし余り気にしなかった。
「こんな調子で厘様の跡目を立派に継げるのか…陽司めは大変とっても非常に心配ですよ」
背後からしつこく呼び止められ、少年はぴたりと足を止めた。
その彼の付き人である青年が、息を切らせながらひと足遅れて立ち止まる。
「はあっ、はあ…やっと追い付いた……」
「だらしねえなあ、陽司(ようじ)。最近鈍ってんじゃねえの?」
少年から陽司と呼ばれた青年は、傍らでけらけらと笑う主人を少し恨めしげに見返した。
「いい加減になさってくださいっ!何度霊力の修練と学習の時間から逃げ出せば気が済むんです!!」
「部屋に閉じ籠ってうだうだ勉強したり、魔法の初歩ばっか繰り返してたって何も変わらないだろ?俺は外に出て、自分の目で物事を捉えたいんだ。それに…」
周の白金の髪が、風に流されてふわりと揺れる。
「もう修練なんかしなくたって、お前を出し抜くくらい簡単だしな」
次いで、緋色の瞳が悪戯っぽく輝いた。
「はあぁ…奥様に叱られるのは俺なんですよ?」
周の母――霊奈 厘(りん)は、この春雷の国の領主を務めている。
女性ながら男勝りと評価される手腕で評判の彼女が、四十半ばを超えてから授かった一粒種、それが周である。
父親は、周が生まれたときからいない。
周は一度だけ父親について訊ねたことがあるものの、厘が何も言わなかったため、訊いてはならないことなのだとそのとき理解した。
だからそれ以来、父親のことは訊かなかったし余り気にしなかった。
「こんな調子で厘様の跡目を立派に継げるのか…陽司めは大変とっても非常に心配ですよ」