いとしいあなたに幸福を
「あ…さっきの続き、なんだけど」

「うん」

陽司は神妙な面持ちで頷いた。

「俺たちの集落を襲った奴らが、首謀者らしい男のことを架々見って呼んでたんだ。人攫いたちがそいつを領主の息子だって話してるのも聴いた」

「えっ…?!」

俄には信じ難い、といった表情で陽司は立ち上がった。

悠梨自身、一国の領主子息が人攫いの集団に荷担しているなんて信じられない。

しかし悠梨が見聞きしたことは事実であり、陽司も悠梨がそんな嘘をつく必要がないことは解っているだろう。

「顔も見たと言ったね、架々見と呼ばれていた人はどんな感じだった?」

「…妹も俺も見たよ。暗い茶髪と黒い眼をしてて、蛇みたいに陰湿そうな男だった」

その言葉に、陽司は苦笑しながら頷いた。

「確かに、薄暮の領主子息はそんな感じの印象だったな…髪色と眼の色も一致してる」

余り信じたくない話だが、やはり奴は領主子息に間違いないのだろうか。

「顔を隠していなかったってことは、事件が発覚しない自信があったってことか…?だったら君たちを必死で追い回すのも頷ける」

「それにあいつ、能力者だ。底なしみたいな真っ黒な闇を操ってた」

「やっぱり、そうか…今度薄暮の領主子息の顔が載ってる資料を持ってくるから、君たちが見た人物と人相が一致するか確認させてくれ」

悠梨と愛梨は揃って頷いた。

これで少しでも、捕まった仲間たちを助ける力になれれば良いのだが。
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