いとしいあなたに幸福を
「成程。君たちを取り逃がしたから、対策を練られる前に出来るだけ風使いたちを捕まえようと他の集落も襲っているのか…この奥様の体調が優れないってときに…」

そういえば、先程倒れたと言われていたのは――周の母、つまりはこの国の領主か。

「お兄ちゃん、領主様…病気なの?」

「…そうみたいだな。陽司さん、不謹慎なことを言って申し訳ないんだけど…万が一領主様に何かあったら、周が跡を継ぐのか?」

「ああ…あの方は厘様の一人息子だし、春雷では領主は世襲だからね」

周は自分と同じ歳で、もう国を守ることを考えなければならないのか。

俺は、妹一人を守るだけでも精一杯なのに。

「…周様は自分では領主になりたくないなんて仰るけど、あの方程この国を愛してる方はそういないよ。元々風使いたちの行方不明事件には心を痛めていたけど、君たちの集落が襲われたと聞いたら周様はすぐさま邸を飛び出して行ったんだ」

「!」

「厘様はきっと誤った判断だとお叱りになるだろうけど…あの方の行動のお陰で君たちを見付けることが出来た。周様は厘様とはまた違った、いい領主様になれる筈だよ」

「――周さんは、お母さんとうまくいってないだけだと思うの」

ふと、愛梨が唐突に口を開いた。

「愛梨?」

「領主様になるのがいやなんじゃなくて…お母さんともっとお話がしたいだけだと思うの」

愛梨の言葉に、陽司は首を傾げた。

「愛梨ちゃんは…どうしてそう思うの?」

「…さっき、領主様が倒れたってきいたときの周さん、そんな感じがしたから」

陽司は小さく溜め息をつくと、愛梨の頭を優しく撫でた。

「君は不思議な子だな。出逢って間もないのに、あの方のことが解るのか」
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