いとしいあなたに幸福を
――成程。

身分ある家柄の娘にも、幾つか求められる条件がある。

条件の一つとして、嫁ぎ先の跡継ぎを無事出産するためには、健康な身体でなければ貰い手はつき難い。

厘としても望む条件は同じだろうが、この息子の相手となると嫁がせたいと思う親元などそういない。

相手に文句を言っていられないのはお互い様、か。

確かに家柄だの跡継ぎだの、そんなことにばかり拘るのは――口には出せないが――馬鹿馬鹿しく思えた。

「…それで、見合いの日取りはいつです?」

「一ヶ月後に、秋雨でよ。それまでに私の体調が、戻ると良いのだけど…」

「相手方から春雷へ赴いて貰うことは出来ないのですか?」

「難しいわね。そもそも令嬢の身体に障らないようにと、私から秋雨での会合を申し出ている訳だし」

とはいえ、もし当日までに厘の体調が戻らなかった場合は、周一人で秋雨へ向かうことになる。

果たして厘抜きであの占部との会話は上手く成立するだろうか、それだけが心配だ。

「…その占部様の令嬢はどんな方ですか」

「都さん、というそうよ。歳はお前の五つ上、十九ね。一度お逢いしたけれど、とてもお淑やかでお綺麗な方よ」

きっと病弱でなければ、こんな歳下と見合いをさせられることなどなかったろうに――まだ見(まみ)えぬ未来の妻に、小さく同情する。

「俺には何かと、秋雨に縁があるようですね。一ヶ月後が楽しみですよ」

周はそう言いながら、軽い調子で厘に笑って見せた。


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