いとしいあなたに幸福を
「悠梨、俺も出来るだけ母の捜査に協力していく。それだけで二人の大切な場所を守れなかったことが、帳消しになるだなんて思ってないけど…」

「っ…」

確かに襲撃があった日より前に、予兆と言える不審な事件は起こっていた。

近隣の集落でちらほらと行方不明者が発生しているという話は、悠梨も愛梨も耳にしていた。

だが互いの集落同士で注意を呼び掛け合い、極力単独行動を控えようという自衛対策を取るだけで、都市部の役所には本格的な対策の申請を行っていなかったようだ。

まさか集落ごと、闇夜に紛れて襲われるとは誰もが予想だにしていなかっただろう。

「いいよ、周…そう言葉を掛けて貰えただけでも充分だ」

こうして周が親身になって心を痛めてくれるだけでも、幾分救われたような気がする。

「だけど、せめて……一人でも多くの仲間たちを、救ってやって欲しい」

「ああ…全力を尽くすよ」

「ありがとう、周さん……わたしたちのために、もうたくさん頑張ってくれてるのに」

愛梨は周に向かって、嬉しそうに顔を綻ばせた。

「愛梨ちゃん…」

「陽司さんから説明は受けたよ。俺たちの行先のことまで、考えてくれてたんだな」

「あ、ああ…下働きでも嫌でなければだけどな。それにうちの邸なら追手が街まで来ても手出しは難しいだろ?」

働き口どころか身の安全の確保まで考えて貰っておいて、それを断る理由など何処にもなかった。

「俺も愛梨も、精一杯頑張るよ。なあ、愛梨?」

「うんっ」
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