いとしいあなたに幸福を
「それなら良かった。ああ、あとは…さっき途中になっちまった奴の名前だけど――」

「…架々見、です」

悠梨が説明するより早く、ふと表情を曇らせた愛梨が答えた。

するとその途端に周の眼の色が険しくなった。

「架々見…?ああ、成程な。息子の尊(みこと)のことか」

すぐに領主本人ではなく息子のほうに思い当たり、尚且つ周が大して驚いていない辺りに、奴の人としての程度が知れる。

「周は架々見がどんな奴か、知ってるか?」

悠梨がそう訊ねると、周は「ああ」と肩を竦めて笑って見せた。

「一度だけ面と向かって挨拶したことあるけど、そのときに半端者呼ばわりされたな」

「半端?」

「俺は半分、秋雨の血が入ってるからな。純粋な春雷の人間じゃないことを馬鹿にしてやがんだよ。領主の家系は基本的に純血だから、そう言う奴は他にもいるけどな」

そう言って周は、うんざりしたように溜め息を漏らした。

「…あんな奴より、周はちゃんと立派に春雷の領主子息らしいよっ」

「うん…それにわたし、周さんの髪の色、好き。眼の色だって、わたしやお兄ちゃんより濃い紅(あか)で綺麗」

思わず張り上げた言葉に愛梨がそう続くと、周は面食らったように眼を瞬いてから少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「…あ、有難うな。二人にそう言って貰えると何か…すっげー嬉しい」

そうして、照れ隠しをするかのように頭を掻いた。

傍らの陽司が、嬉しそうに頷いている。
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