いとしいあなたに幸福を
「え?」

「お…お兄ちゃん?!なに言ってるのっ」

悠梨が愛梨に咎められるのを見て、周はけらけらと笑い声を上げた。

「周…!俺は本気でっ」

「ははっ…そうだな、笑って悪かった。安心しろよ悠梨、俺は愛梨ちゃんに手出しはしない」

冗談抜きで言ったつもりだが、周の声色も負けじと神妙で、悠梨はふと周の顔を見直した。

「俺は、来年には結婚するんだ。まだ逢ったこともない、秋雨の令嬢とな」

「へ…」

「本当なら母も相手方も、早く祝言を上げたいみたいだが…流石に俺が子供過ぎるんでな、俺が十五になり次第ってことになってる」

周の言葉に、陽司が声を掛けた。

「周様…今、話が進んでいるのはまだ見合いの話では」

「一応、来月には相手に逢ってくるが…よっぽどのことがなけりゃ、その場で婚約成立だろうよ。お互いの親同士、色々思惑があるみたいだしな」

「それは…」

すると陽司は、まるで自分のことのように意気消沈して俯いた。

「何でお前のが落ち込んでんだよ?」

対する周は頻繁に笑って見せるが、それは空元気というか、既に諦観しているように見えた。

親に決められた、政略的な意味合いの結婚。

周の力になりたいとは思ったものの、これは自分には何の役にも立てそうにない。
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