いとしいあなたに幸福を
「――架々見…!やばいんだ、助けてくれえ…っ!!」

男は、がたがたと震えながら床の上に蹲(うずくま)る大男を目の前にして、見下すように視線を落とした。

「此処には来るなと、言ってあった筈だがな」

「んなこと言ってられるかっ…!緊急事態なんだよ!!」

大男の情けない叫び声に、架々見はぴくりと眼を細めた。

「…緊急事態?」

「春雷から調査団が派遣されたんだ…!!人狩りに関わった奴らが次々検挙されちまってるっ…早くしないと仲間内はみんな全滅だ!!」

「成程な…もう動き出したか。最近動きの鈍かった春雷にしては、今回の対処は早かったな」

くつくつと愉しげに笑う架々見を目の当たりにして、大男は呆然とした。

「架々見…お前まさか、いつ春雷から調査団が来るのか知ってたのか…?!」

「まさか。ただし今回の検挙は親父が向こうの領主と、極秘の会合を経て実現したみたいだがな」

「そ…其処まで解っていながら、何故領主を止めなかった!?俺たちが捕まれば、お前の関与が明るみに出るのは時間の問題だぞ!?」

「親父は俺を政局に関わらせないのでな。親父の方針には口出し出来ないんだよ」

「だったらせめて、調査団が来ることを事前に知らせておいてくれればっ…!!」

「ほう…?あの兄妹を取り逃がしておいて、俺に頼ることばかり考えているから、無能なお前たちは動きの鈍(にぶ)い春雷にすら尻尾を掴まれた訳だ」

架々見は苛立ちを露に、大男の前髪を掴んで顔を上げさせた。

「あ…あの兄妹を捕まえ切れなかったのは、向こうの領主子息が邪魔立てしやがったせいでっ」

「春雷の領主子息…あの生意気そうな半端者の若造か」
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