いとしいあなたに幸福を

04 斜陽-しゃよう-

「愛ちゃん、周様知らないかい?」

――厨房で食器類の整理をしていた愛梨は、疲れ果てたように壁へ凭れ掛かる陽司に首を振って見せた。

「参ったなあ…悠梨くんも見掛けてないみたいだし、一体何処に隠れたんだか」

「周さん、見付からないんですか」

「うん…多分逃げた。全く、もうじき秋雨から占部様がいらっしゃるっていうのに…悪いけどまた来るから、見付けたら捕まえておいてくれるかな」

「あ、はい」

陽司はかくんと肩を落とすと、再び周を探しに走っていった。

愛梨は陽司が去っていったのを確かめると、食卓の敷布の下にこそりと声を掛けた。

「……だそうですよ、周さん」

すると布地の裾から、まだ周囲を警戒した様子でそろそろと周が顔を覗かせた。

「うん、聞こえてたよ。ありがとな愛ちゃん、助かった」

国の次期領主が自分の邸の厨房で隠れんぼ、と思うと愛梨は少し可笑しくなって吹き出してしまった。

「?どした」

「あんまり陽司さんを困らせちゃ駄目です」

「解ってるよ、でも向こうの親御さんは俺がいないほうが機嫌がいいんだ。いっそ俺は不在ってことにしてたほうがいいのにな」

「周さん…」

周が自分の身を卑下すると、愛梨は酷く切ない気持ちに陥る。

身分や種族、年齢などで差別せず分け隔てなく人と接することが出来るのに――そんな周を見下す人がいることに悲しくなってしまう。
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