いとしいあなたに幸福を
(おーおー、帰れ帰れ)
周は心の中で塩を撒きながら笑顔で取り繕った。
「大したおもてなしも出来ず、申し訳ありません」
向こうも周に引き留めるつもりがないと解っているようで、さっさと帰り支度を始めた。
「お父様…もう帰られてしまわれますの?」
余りにも素っ気ない父の態度に、都は少し困ったように声を上げた。
「都、婚礼の日にはまた逢える。それまで身体には十分気を付けて、こちらの皆様に粗相のないようにな」
「はい…」
――占部と従者たちが帰ってゆくと、都は慌てて周に頭を下げた。
「いつも父が失礼な振る舞いをして…申し訳ありません。私が父に代わってお詫び申し上げますわ」
「私のことならいいんですよ、占部様の大事なご息女を娶らせて頂く身ですからね。謝る必要なんてありません、どうか顔を上げてください」
「周様…」
都はいつも、父とは似付かず周に対して丁寧な物腰で対話をしてくれる。
当初は縁談の席でだけ取り繕った態度かと、邪推してしまったが――何度か秋雨で対面していく間に、それが杞憂であることにすぐ気が付いた。
周を差別的な目で見る者が殆どである自信過剰な占部の血族の中では、唯一好感が持てる人柄だ。
都に幼い頃から仕えている侍女によると、生まれ付きの病で周囲に気を遣わせてしまっていることが、彼女にとって負い目になっているらしい。
生まれたときから、自身に対する周囲の目が気に掛かる――事情は違えど自分と似たような都の境遇に、周は共感したのかも知れない。
それ故、占部の家は正直好きになれそうにないものの、都のことは疎ましく思わなかった。
周は心の中で塩を撒きながら笑顔で取り繕った。
「大したおもてなしも出来ず、申し訳ありません」
向こうも周に引き留めるつもりがないと解っているようで、さっさと帰り支度を始めた。
「お父様…もう帰られてしまわれますの?」
余りにも素っ気ない父の態度に、都は少し困ったように声を上げた。
「都、婚礼の日にはまた逢える。それまで身体には十分気を付けて、こちらの皆様に粗相のないようにな」
「はい…」
――占部と従者たちが帰ってゆくと、都は慌てて周に頭を下げた。
「いつも父が失礼な振る舞いをして…申し訳ありません。私が父に代わってお詫び申し上げますわ」
「私のことならいいんですよ、占部様の大事なご息女を娶らせて頂く身ですからね。謝る必要なんてありません、どうか顔を上げてください」
「周様…」
都はいつも、父とは似付かず周に対して丁寧な物腰で対話をしてくれる。
当初は縁談の席でだけ取り繕った態度かと、邪推してしまったが――何度か秋雨で対面していく間に、それが杞憂であることにすぐ気が付いた。
周を差別的な目で見る者が殆どである自信過剰な占部の血族の中では、唯一好感が持てる人柄だ。
都に幼い頃から仕えている侍女によると、生まれ付きの病で周囲に気を遣わせてしまっていることが、彼女にとって負い目になっているらしい。
生まれたときから、自身に対する周囲の目が気に掛かる――事情は違えど自分と似たような都の境遇に、周は共感したのかも知れない。
それ故、占部の家は正直好きになれそうにないものの、都のことは疎ましく思わなかった。