いとしいあなたに幸福を
「愛梨、お前つらくないのか?」

自室に戻って人心地ついたところで、悠梨から唐突にそう問われて愛梨は首を傾げた。

「…どうして?」

「あいつが都さんと結婚して、邸中がその話で持ち切りだろ。今に子供が生まれることになっても、お前平気なのか」

平気か、そうでないか。

そう問われれば、全く心が揺らがない訳ではない。

今は平気なつもりでいても、実際その時が来たらどうすれば良いか解らないかも知れない。

「お兄ちゃん…」

「…もしもお前がつらいんなら、此処以外の仕事を見付けてもいいんだぞ?」

「!ううんっ…わたし、それでも此処にいたい。周さんの傍にいられるだけで、いい。前にも言ったじゃない」

「愛梨」

それでも今は、周のすぐ傍にいられることが幸せだ。

周と都が幸せなら、それでいい。

せめて少しだけでも、あの二人が幸せになる手助けがしたい。

「…陽司さんから、聞いたんだ。周は厘様に早く跡継ぎを作れって急かされてるらしくて」

「!」

厘との関係修復には、未だ進展は殆どないらしい。

母親の望み通りに結婚を果たしただけでは、まだ周は落ち着くことが出来ないのか。
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