いとしいあなたに幸福を
「…そういや都も愛ちゃんと話をしたがってたな。ちょうど良かった」

「わ…わたしと、ですか?」

「ああ、都は君のことが気になるみたいでな。少しだけ話し相手になってやってくれるか?」

「はい」

「…ん。よろしくな」

周はもう一度、やんわりと愛梨の髪を撫でると、足早に通り過ぎて行ってしまった。

その瞬間に、ほんの少しだけ花のような甘い香りがふわりと漂ってきた。

周は香水などの類いは使わない筈だが、一体何の匂いだろう。

――そんなことを考えながら都の部屋の扉を叩くと、室内から都が「どうぞ」と応答した。

「失礼します」

扉を開くと、愛梨の姿を認めた都は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「あら…?愛梨ちゃん!」

室内に入ったとき、ふと周と擦れ違った際と同じ甘い香りがすることに気が付く。

そうか――これは都の使っている香の匂いだ。

都の寝室ということは、周も共に眠る部屋だということを、愛梨はすっかり失念していた。

いくら幼いとはいえ、相手の移り香がする行為の意味くらいは愛梨でも解っている。

「貴女がお世話に来てくれるのは初めてね。一度ゆっくりお話してみたかったから嬉しいわ」

優しい笑顔を向けてくれる都とは裏腹に、愛梨は思わず泣きそうな気持ちになった。
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