いとしいあなたに幸福を
「悠梨おま…!本気で殴っ…」

抗議の声を上げ掛けると、悠梨は苦しげに顔を歪めて首を振った。

「愛梨を、泣かせたっ……」

「っ…?愛ちゃんを…俺がか?」

全く身に覚えのないことに、周はただ首を捻るしかなかった。

愛梨が――何故?

「…周」

悠梨は項垂れると、暗い顔付きとは裏腹に明るい声色で告げた。

「都さんの、こと…おめでとうな」

次いで短く「ごめん」と言い捨てて、悠梨は行ってしまった。

「……なん、なんだよ」

直前の行為と去り際の言動が飛躍し過ぎて、繋がりが見えない。

愛梨が、自分のせいで、泣いている?

「訳わかんねぇ」

母のこと、都のこと、悠梨と愛梨のこと。

周の頭の中で様々なことが交錯して、破裂してしまいそうで。

今はもう、目先のことしか考えられなくなっている。

少し前までは、まだ余裕があった筈なのに。
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