いとしいあなたに幸福を
「おはよう都。今朝の調子はどうだ?」

安定期まで都とは寝室を分けることになった周は、着替えを終えて都の元を訪れると目を覚ましたばかりの妻の枕元でそう囁いた。

「あなた…おはようございます。今日はとても気分がいいわ」

空色の双眸がゆっくりと瞬(まばた)きしながら、こちらを見つめる。

「良かった。俺も今日は割と暇だから、なるべくお前の傍にいられるよ」

「本当に?嬉しい…あなたが傍にいてくださると、私それだけでとても心強いの」

「何だよ、大袈裟だな。俺なんか子供のことなんて全然知らないことばっかで、おろおろしてるだけなのに」

苦笑して都の頬に唇を寄せると、都はくすぐったそうに微笑んだ。

「あなたは私にとって、太陽みたいなものなのよ。だから…一緒にいられるだけで幸せ。その上、あなたとの子供まで授かれたんですもの…全然大袈裟じゃないわ」

「俺だって負けないくらい、都の傍にいられるのが嬉しいよ。本当なら仕事なんか放り出して、ずっと都と一緒にいたいくらいだ」

くすくすと笑いながら都は小さく首を振る。

「まあ。あなたったら、そんなことを陽司くんに聴かれたら怒られてしまうわよ」

都は一身に自分を愛してくれる。

彼女の言葉や眼差し一つを取っても、その感情が滲み出ているのが解る程に。

まるで母親や姉に見守られているかのような、無条件に自分を愛してくれる人が出来たような感覚だ。

こんな風には愛され慣れていなかったせいか、当初は相当戸惑ってしまったが――今は都が注いでくれる気持ちに全力で応えたい。

なのに、どうして。

どうしてあのときの愛梨の怯えた視線ばかりが頭に浮かぶんだ。
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