この束縛野郎が!!
市営図書館のガラスドアを開ければ、
つめたい冷気が体に当たる。
中はとても涼しくて快適だけど、出て行く時の外の熱気が恐ろしい。
帰りは外が涼しくなり始めた時に帰ろう…なんて外を睨めつけながら決めて、
図書館内で落ち着けそうな席を探す。
窓際は暑そうだし、人が通るところはあまり集中できない。
資料もどのくらい使うか分からないから、本を探しに行きやすいように古典の資料がある本棚の近くがよさそうだ。
あそこ、と自分の目で定めた席へ行こうとすると…
横から来た人とぶつかって私のバッグが落ち、中の教科書類が飛び出した。
それと同時に横から来た人も手に持っていた本や筆記用具を落としてしまった。
「あっごめんなさい」
「すみません」
2人で謝りながら腰を下ろす。
相手は私と同世代くらいの若い男の子だった。
お互いに自分の落としたものを拾っていれば、最後に拾おうとした教科書に手を伸ばし、2人して手が止まる。
「…同じ教科書?」
「あっ!本当だ」
うまい事重なるようにして落とされた教科書は2冊同じものだった。
私が持ってきた古典の教科書と、
この男の子が持ってきたであろう古典の教科書。
あらかじめ教科書の裏に小さく名前を書いていた私は、
両方ともひっくり返して自分の名前が書いてある方を胸に抱え、
もう片方の…『桐谷』と書かれた方を男の子に差し出す。