【短編集】あいとしあわせを祈るうた
シンヤは、嘘つきだった。
「ノリで言っちゃったけど。
俺もヒロトも大学生なんかじゃないんだ。幼稚園からの幼馴染み」
ゴソゴソと尻のポケットから、財布を取り出し、一枚の名刺を私の目の前に置いた。
「佐藤慎也。26歳。
医療器具メーカーの営業してるんだ。
会社はマイナーだけど、業界では有名なんだよ。
彼女にフラレて、ヤケクソで、人生初の金髪とピアスにチャレンジした。
自分じゃない誰かになりたくってさ。
わずか4日だけだったけど。
営業マン、金髪、ピアスやべえし。
クビになるし」
26って…ビックリ。
本当に大学生に見えたよ。
なら。
私も嘘を訂正しなきゃ。
「私、本当はりなじゃないんだ。
本名は、伊藤香代子。
香るに代表の代、子供の子。
香代子って名前、平凡過ぎるから好きじゃないの。
あと、歳もごまかし。
22歳じゃなくて、本当は28歳」
…これは、ドン引くだろうと言ったのに。
「ふーん…香代子、アラサーなんだ」
意外に冷静な反応。
その後すぐに、カルビを一口パクリ。
「香代子抱いてる時、俺、もしかしたら、もうちょっと歳いってるんじゃねえかって、思ったんだよね」
お肉をムシャムシャしながら言う。