【短編集】あいとしあわせを祈るうた
週が明けて月曜日。朝、オフィスで顔を合わせても、加賀はひと言も労いの言葉を発しなかった。金曜日のことなんか何もなかったみたいに。
それどころか、この頃から加賀は私を目の敵にするようになった。
思えば、エピローグは課長から加賀に手渡された出張土産の信玄餅だった。
こういうお土産のお菓子を課員に配るのは、目立ちたがりで仕切り屋の加賀の仕事だった。
(ナントカさんからのお土産でえす、と黄色い声で嬉しそうに配るのだ)
透明ビニール袋に包まれた小さなそれは、私のデスクにだけ置かれなかった。
(いいよ、私、あんまりお餅好きじゃないし、人数分なかったのかもしれないし)
先々週の金曜の夜、社内で女子会があったらしい。
綺麗な夜景がみえる話題のレストランに誘われなかったのは、幼稚園の子供がいるイケダさんと私だけっぽい。
週明けの月曜日、給湯室で先輩達がフォアグラが最高だったの、シャンパンが美味しかっただの聞こえよがしに言い合っていた。
(私は1人暮らしだから、ご飯にそんな高いお金出せない。良かった。誘われなくて)
私が女子の集まっているところにいくと、ひそひそと耳打ちし、パラリと人の輪がほぐれて散っていく。そんな事が続いた。
その中には必ず加賀がいた。
嫌われている、と確信するしかなかった。殆ど喋ったことのない人たちにまで避けられてしまうのが不思議だった。
(なんで初対面の時、加賀を綺麗な人だなんて思ったんだろ?
あの険のある目。性悪そのものなのに)