【短編集】あいとしあわせを祈るうた
そして今週。
私は仕事で大きなミスをしてしまった。
気難しいと評判の大阪営業所の所長を怒らせてしまい、電話口で泣きそうになりながら、何度も頭を下げた。
ようやく、苦情の電話を切った私が目にしたのは、加賀が隣の女子社員とくっ付いてこちらを見ながら、クスクス笑っている姿だった。
デスクから離れた私は会社のトイレで声を出さないようにして泣いた。会社で泣くなんてサイテー。
そんなこと分かってる。でも止められなかった。
鼻の赤みをパウダーを消して、席に戻ると「何していたの?早く電話の内容を上司に報告するべきじゃない?トイレの振りしてサボるなんて非常識。社会人失格よ」
加賀が冷たい声で向かいから言い放ち、隣にいた女が髪をいじりながら「そうそう」と相槌を打った。
朝、起きるのが辛くなった。
辞めたいな…
いつもそう考えるようになった。
でも、せっかく入った会社だし、過干渉な母親を持つ私は、やっと出られた実家。簡単に帰りたくなかった。
頑張らなきゃ…
そう思うと胃がキシキシ痛んで、薬が手放せなくなった。
昨夜、高校3年から付き合っているユキヤに、ひと月ぶりに逢った。
ファミレスでハンバーグを食べながら、
少しだけ会社のことを愚痴ったら
「仕事が大変なのは皆同じだよ」
って不機嫌になってしまった。
ユキヤに慰めてもらおうとか思ってたわけじゃないけど。
ユキヤも残業続きだし、上司とウマが合わなくて苦労してるの知ってる。
でも、私はあなたの友達じゃないよ、彼女だよ。優しくして欲しかった。
夜のネオンの下、どんどん先に歩いていくユキヤの背中を追いながらなんとなくもう終わりかな……と感じる私がいた。