【短編集】あいとしあわせを祈るうた
私は住田あかね。
彼氏なしのアラサー。
秘書課に勤務する派遣社員。ちなみに今の薬品メーカーは3コめ。一人暮らし。最初は幼なじみのカレを追って上京、同棲していたんだけど、2年ほど前すったもんだの末、自由を手に入れたわけ。
今思うのは、その幼なじみ彼と結婚しなくて良かった!子供出来なくて良かった!ってこと。
だから今、こうして第二の青春を謳歌していられるんだもん。
故郷の両親も姉一家と同居して一安心だし。
上京して6年になる。
専務付け秘書の私が出勤して朝一番にやることは専務室の点検。机が汚れてないか、書棚が乱れてないか。床が埃っぽかったら業者の人を呼んでモップを掛けてもらう。来客の目は厳しいから気が抜けない。
あとはパソコンを立ち上げてスケジュールの確認。
専務はおじいちゃんだからメチャクチャ忙しいってことはない。
少し気難しい面もあるけど、地方に出張すれば必ずお土産買ってきてくれるし、孫命で初孫『ななおちゃん』の写真を肌身離さないところもかわいい。
専務室で花を活けていると、秘書課リーダー、須藤千春主任がいきなり入ってきた。きりりとした黒縁眼鏡に紺のワンピース。
「スミダ、おはよう」
「あ、須藤さん、おはようございます」
「あら?何ぼさっとしてんの、窓汚れてるじゃない。
ダスキンさん呼びなさいよ、早く早く」
「あ、はい。すみません。ただいま」
大丈夫だと思うのに…
私は慌ただしく内線電話をかけた。
「綺麗なすかし百合ねえ。専務、お好きだものね。でも、もう少し葉を落とした方がいいわ」
「あ、はい」
(そうかな?淋しくなると思うけど)
点検という名目のおせっかいなんだよね。仕切り屋で細かくて思った事を口にしないと気が済まない。姉御肌で面倒見いい面もあるけど気に要らない子は、無視したりする陰険な面もある。
3か月前にも須藤さんに目を付けられて辞めた子がいたっけ…