【短編集】あいとしあわせを祈るうた
約束の時間に5分ほど遅れて居酒屋に現れた美紀は、ひょろりとしたいかにも
『草食男子』を伴っていた。
「私の部下。杉本君」
「あ、どうも杉本タカシです」
ひょこんと頭を下げる。
紺のダッフルコートに、黒のショルダーのビジネス・バッグを斜め掛けしているのがちょっとダサい…
第一印象は『大人しそうな子』
薄暗い灯りの下でも、はっきりと分かる色白の頬と首筋は、杉本君を育ちのよいお坊ちゃんに見せていた。
「ところで」
私の愚痴がひと段落した頃。
「杉ちゃん、こないだ彼女と別れたばかりなんだって!
何があったのか話しなさいよ〜!」
少し酔いが回り始めた美紀は、
横に座る杉本君をいじり始めた。
アラサー女は純情年下男をからかうのが大好きだ。
杉本君はずっと私達の話を、楽しそうに聴いては、飲み食いするだけで決して出しゃばらない。
格好のエサだ。
私もつい、
「ええっ!何、何?」
ニヤニヤしながら、身を乗り出してしまう。
そんな私達に杉本君は
「いや…俺の話はいいですよ〜」
とジョッキ片手に笑いながらも困惑したように、まばたきを繰り返す。