【短編集】あいとしあわせを祈るうた
再会したのは半年前。
哲也の勤め先【オードリー食品】が入っているオフィスビルの上階にある【ひよどり損保】に私が転職したから。

エレベーターの中で偶然に出会い、あ!ってお互いを指差した。
哲也は山口から東京に赴任していたのだ。


ーーなあ、キミ、鳥越まさみだろ?旭ヶ丘中の!

私をひょいひょいと指差す。そのひょうきんな仕草は昔と変わらず。あの頃はちょいおデブだったのに今はガッチリタイプになってる。


ーーえー、マジか。キレイになったね。


良く透る声で実に屈託のない笑顔を見せてくれたのが嬉しくて。私からラインの交換を申し出た。

それ以来、ちょいちょい連絡取るようになった。哲也との懐かしい思い出話は本当に癒される。

近所にいたカワイイにゃんこの話。小5の時、哲也が迷子になった遠足の話。野球部だった哲也が学年一の美女に告られたものの、わずか一週間後に振られた話…


「ゲス不倫とか言わないでくれる?あんなのただのはずみ!気の迷い、口と口がくっついただけ!
もうアレはきっぱり切ったから。ラインもブロックしたし、会社でも私的会話一切しないし。
…それより今日はありがと。
哲也がクリスマスイブに暇人で、本当に私、ラッキー」


「おー、定時であがるのマジ大変だったんだぞ、デートですかとかきかれるしよー。感謝しろよ」

「してるよーありがと、てっちゃん!」


今日はクリスマスイブ&お祝い。わずかな空白時に実に巧妙に仕掛けられた不倫という罠。
それにうっかりハマることなく、大人の対応で切り抜けた自分を褒めてあげたくてこのバーの上階にあるリッチなお部屋を予約した。

クリスマスイプだっちゅうに、そんなお部屋に一人きりで泊まるのは佗しいけど、家で家族と過ごすのもなんだかなって思うし。親友のかなこは先約あるし、哲也が付き合ってくれて本当に嬉しい。ま、哲也はこのあと帰っちゃうんだけど。


「まさみに不倫は似合わないよ。きっぱり止められて良かった」


不倫は似合わない…か。

なんかこのセリフ、胸にズキュンときた。
…哲也が軽蔑もせず、本当に私のこと心配してくれてるのが伝わってきて。優しいな….





< 54 / 70 >

この作品をシェア

pagetop