【短編集】あいとしあわせを祈るうた
「あのね、ここのお部屋、夜景が売りなの。東京タワーがどーんと見えるんだって」
「へえ」
哲也がくるりと目玉を動かす。
この癖、小さい頃から変わらない。遊んでる時、楽しい時良くやる仕草だよね。
「そういやさ、里帰りとか出張とかで新幹線に乗って東京に戻るだろ、その時新幹線の窓から東京タワー見るとマジ、ホッとするんだよな。
ただいま、無事に帰ってきたよなんて呟いたりして。安心するんだよ。なんでだろな。スカイツリーじゃこうはいかない。あれは異形の建造物だよ。
ゴジラにぶっ壊されちまえとか思う」
今夜の哲也はお酒のせいか饒舌だ。哲也ってほんと歯並びがいい。そういえば小学生の頃歯列矯正してたよね。
「…んん?何?まさみ」
哲也が怪訝な顔をして私の顔を覗き込んだ。
「俺の歯になんか挟まってるか?」
少し赤くなってる。酔いのせいプラス恥ずかしいんだ。わかりやすいね。裏表がない人なのよね。哲也と一緒にいると心地良いなあ。例えるなら…ふかふかの羽毛布団に包まってる感じ。
「ううん、大丈夫よ」
「そっか。それにしても東京タワー見える部屋っていいなあ。俺もぼっちで今度泊まってみようかな。まさみみたいに」
「最後の方イヤミねえ。…じゃさ、ちょっとだけお部屋行ってみない?」
「え?なにそれ、ヤバイでしょ?」
「やばくないでしょ。ね、行こ行こ!ちょっとならいいじゃない!一緒に東京タワー見ようよ」
私はモスグリーンのスカートの裾を翻し、哲也の腕をひいた。
慌ただしく会計を済ませ、タイミングよくきたエレベーターに乗り込んだ。
滑らかに上昇するシースルーエレベーターから都会のクリスマスシーズンの賑わいを見降ろす。
巨大クリスマスツリーが、デコレーションケーキの飾りみたいに小さくなっちゃった。
広くはない空間で哲也と2人。
もしかしたら、これから何かが始まる?
なんか予感がする…かも?
「ここよ。3012号室」
カードキーを当て中へと入る。自動的に暖かな間接照明が灯る。