【短編集】あいとしあわせを祈るうた


だが、美紀は追跡は止まらない。


「仕事が忙し過ぎて振られちゃった?
今月、うちの課、毎日残業2,3時間当たり前、さらに休日出勤で三週連続土曜日潰れたもんなあ。
オーバーワークもいいところ!
日曜なんて、疲れて泥のように寝てるだけよ。

仕事と私、どっちを取るの?って彼女に責められたら、杉ちゃん、しゅんとして、何も言えなさそう〜!」


あははと笑い声を立てながら、美紀はバーンと杉本君の左肩を引っ叩き、杉本君の華奢な身体がぐらりと揺れる。


もう……美紀ってば、そのヒト叩く癖、おばさんぽいからやめて……

と私が思った時。


テーブルに置いた美紀のスマホが鳴り出した。


ちょっとゴメン、と言い残して、席を外した美紀は、約1分後、私と杉本君にただならぬ様子で告げた。


「母が台所でギックリ腰になっちゃって動けないっていうの。
ゴメン、本当悪いけど、私帰るね!
二人でゆっくり飲んで!」


「えっ!」


私は思わぬ展開に戸惑いを隠せないのに、杉本君は、
「あ、はい。わかりました」と『上司』の指示に従う返事。


カクテルと中ジョッキ1杯ずつしか飲んでないのに、テーブルに千円札を三枚も置き、美紀は風のように去っていった。





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