50センチとチョコレート



いつかこんな会社辞めてやるなんて口癖のように言っているのに、結局は辞める気なんてさらさらなくて。
結局のところ、お世話になってる会社に何かしら企画を出して商品化させて、それを会社のトップ商品にするのも夢だったりする。



「あー、企画ずっと通らないなら、辞める時なんて結婚くらいしかないよね」


隣を通った店員に「おかわり」とグラスを突きつけると、営業スマイルでグラスを下げて、新しいのをすぐに持ってきてくれた。



「あら。奈々は結婚したいの?相手は?」

「…愚問」


クスクスと笑う麻美は、一呼吸置いてから、汗をかいたグラスの水滴を指でなぞって私を見つめた。



「奈々は好きな人はいないの?」

「好きな人…ねぇ…」


ふと思い浮かぶのは、隣の席のあの男。
それこそ麻美と私と同期入社の鳴海真人。
5年間ずっと、50センチ隣に座っていて、私の楽しみのチョコレートを奪って行く。


好きかと聞かれたら、よく分からない。
だって、今までまともに恋愛なんてして来なかったから。



「んー。いないんじゃないかなぁ」


曖昧な私の返事に、麻美はまたクスクス笑う。
なんて可愛い笑顔なんだろう。と、女の私まで惚れ惚れしてしまうほどだった。





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