50センチとチョコレート



眩しいくらいの挨拶。
チョコレートを2人でコソコソ食べたあの秘密の共有。
5年で、鳴海との思い出なんてそんなもの。

何度かご飯に誘われたりもしたけれど、結局行けなかった。



朝礼が終わると、私はトイレに行くと上司に告げて、非常階段に向かった。
そして、空を見上げてチョコレートを口に含んだ。



「苦い…」

麻美が考案したポケットチョコレートは、とても苦かった。



「よし、行くかぁ」

パンと、両頬を叩くと、手が少しだけ濡れた。



50センチの壁が隔てた好きという気持ちを胸に押し込んで、また50センチ向こうにいる鳴海に笑顔で「おめでとう」と言おう。


そして、今日も麻美を行きつけの居酒屋に誘って、私を待っている黄金色の液体を体に注ぎ込んで、今までのことを全て麻美にブチまけてもらおう。



そして、私はまた無遅刻無欠勤で、上司のパワハラなんかに負けない社員でいよう。


これが、大人の対応ってやつ、ですよね。







< 6 / 7 >

この作品をシェア

pagetop