カラッポの君-恋計画-
「コイツ、まだ新人ですがね」
テツの話術はすごいと、いつも感心する。
嘘に嘘を重ねて、同情を引き、最後には涙まで流す女。
世の中ってこんなもんなのかって嫌でも思う。
「…それで、デビュー出来ないのね」
「そうなんです」
「あたし、出してもいいわ」
「えっ……」
喫茶店を出る頃、俺たちの手には50万という金があった。
もちろん頂いたわけで、彼女は金で夢を買ったのだ。
「しばらく生活できるな」
テツが目を細めて言った。
俺は黙って空を見上げた。
何色でもない、昼でも夜でもない空を。