冊子「銭湯のすゝめ」
入浴のすゝめ
 暖簾を潜り靴をロッカーにしまう。

 木の札で出来た鍵を引き抜き下を見ると

 常連客であろうか、サンダルがロッカーにしまわれずに引き戸に向かって並んでいる。

 控えめなお婆さんに無言で入浴料ピッタリ支払う。

 「毎度」とにこやかに番台から微笑みが返ってくる。

 つたで編まれた篭をひっくり返し
 
 トントンと底を叩く。

 服を脱ぎつつ歴史を感じる脱衣場を見渡す。

 招き猫も最近見なくなったものだ。

 オシドリと書かれた金属製の鍵を引き抜き輪ゴムに手首を通す。
 
 手拭いを肩にかけ重量感のある体重計に上がる。

 ヒンヤリとした鉄板は何人もの体重を知っているのだろう、塗装が薄くなり鉄その物の色が見える。

 ガラガラっと浴場への扉をスライドさせるとムワッと顔に湯気がかかる。

 小さな銭湯の壁に雄大な景色が書かれていた。

 色々な店の宣伝が書かれた鏡。

 本当に効くのか?と疑う効能を書いたプラスチック板。

 どれもが新しく、どれもが懐かしい。

 この銭湯はどんな銭湯だろう?

 興味の無い人には一見すればどこも同じに見えるかも知れない。

 でも同じ銭湯は2つと無い。

 若者の銭湯離れ
 銭湯の過疎化
 
 何故だろうか?

 こんなにもノスタルジックで
 こんなにも味があるのに

 疲れは癒され
 清潔にもなる

 ここは普段と違う別世界
 誰もが裸で過ごせる場所。

 

 
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