冊子「銭湯のすゝめ」
 幸いにも私が住む京都には銭湯が多くある。

 京都は銭湯文化が進んでいる方だと私は思っている。

 銭湯の良いところは一つの銭湯をとっても色々な顔が見れるという所だろう。

 マンションや大きな窓が取れない自宅の風呂では外からの光源はさほど気にならない。

 薄暗く狭い閉ざされた空間を、申し訳程度の蛍光灯が照らすだけだろう。

 では銭湯はどうか。

 大きな天窓。

 換気用の横長の開閉式窓。

 強化ガラス張りの壁。

 直接的に影響を及ぼす露天風呂。

 一日を通じて三度は劇的にその様相を変えて見せる。


 昼の銭湯では、射し込む太陽がお湯の表面を照らす。

 タイルには淡い太陽光が反射し

 湯気の粒子に光が反射し、天使の梯子と言われる現象が起きる。

 昼真っから湯船に浸かる背徳感にもにた優越感。


 夕方には勿論夕日が生える。

 夕日の横丁を歩き暖簾を潜るだけでも絵にならないだろうか?

 夏のヒグラシが鳴く声を聞きながら入る銭湯は必ず心を洗ってくれるだろう。

 徐々に沈んでいく夕日を窓の外に感じて1日が終わっていく事を湯船でしみじみ思う。

 
 やはり夜に風呂に行く人は多いだろう。

 1日の締めくくりに。

 1日の疲れを癒す為に。

 ライトアップされた露天風呂は温泉に来ているかの用な錯覚をもたらしてくれる。

 夜風は気持ちよく、風呂上がりの町の光はいつもより綺麗に見える。

 月を眺めて入る風呂も、月に照らされて帰る道もこの上なく美しい。


 そしてそれらに京都特有の激しい四季が合わさると更に多くの顔が現れるのだ。

 では何通り楽しめるのか?

 答えは無いだろう。

 その時の体調、客、連れ等様々な要因があるからだ。

 
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