Bitter Sweet
少しすると、足音がこちらに向かってくる。

聴こえる感じでは、一人分の足音。

きっと高梨だろう。


そう解ってはいても、私の足は凍りついたように動かない。


今は出て行けない。
高梨に会っても、冷静になれない私が高梨に何を言うか分からない。


カンカンカン、と階段を昇っていく音がして、廊下を歩いていくのが聴こえる。


まだ胸がドキドキして、次の行動がとれない。


ちょっとして、漸く動悸が収まり始めた頃。

ふいに、足音がまた近づいてきて、階段を早足で駆け下りるのが聴こえてきた。


そーっと壁の端から音がしたほうを覗き見ると、

レジ袋を持った高梨の姿。


アパートの敷地から出て、道路まで行ってキョロキョロしている。

ー私がドアノブにかけてきたレジ袋、だね。

追いかけてくれてる…の?

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