Bitter Sweet
「…何か俺に話、ある?…ずっと何か言いたそうな顔してる。」

ポツリと昂くんが切り出した。

昂くんからの思いがけない問いかけにハッとして、彼の顔を見つめる。


「俺も話、あるんだけどな。先にいい?」

私の話は間違いなく2人の間に陰を落とすだろうとの思いから、先に話をしてもらおうと、コクンと頷いた。


昂くんは、ふー、と溜息を吐いて、肩幅より少し広めに開いた足に両肘をつき両手を組んで下を向いた。


「…懐かしかったな、ライブの曲。特に『Orange』。」

俯きながら、私の顔を見て続ける。

「あの歌聴くと、お前の事が自動的に浮かんでくるんだよ。刷り込みみたいだよな、全く。」

彼は薄く笑って、身体を起こしてベンチの背にもたれかかった。


「なぁ、ひかり?お前に今の俺も知って欲しくて何度か一緒に過ごしたけど、…俺との未来、考えられた?」

ドキッとして、昂くんを見れない。
でも、刺すような視線を感じた。

「ひかり、こっち見て。」

頬に手を添えて、無理矢理私を昂くんの方へ向かせる。

「俺はやっぱり…今のお前も、好きだ…。」

眼鏡の奥のいつも優しい瞳が熱を孕んでいるのが分かる。


「昂くん…。」

私は頬に添えられた手をそっと取り、両手で包んでベンチの上に降ろした。


「私は…、私も好きだよ…。だけど、ゴメン。」

振り絞って出した声。震えたかもしれない。

昂くんの顔は見れないまま、彼の手をギュッと掴む。

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