Bitter Sweet
「最近、なんだよ、私も。自分の気持ちに気付いたの。なのによく分かったね…。」

溜息を吐きながら昂くんは答えた。

「好きな人を見てたらさ、分かるもんだよな。その人が好きなのは誰なのかって。」

そんなに、見てくれてたんだ…。

自分じゃちっとも気付かなかった。


「高梨なんかに、やりたくないけど。」

キュッと抱き締める腕に更に力が入るのが分かる。

「俺といても、淋しい想いしかさせられないなら、一緒にはいられない、な…。」


昂くんの腕の中で、ふるふると、私は頭を横に振った。

「淋しかったわけじゃ、ないよ。楽しい部分だっていっぱいあった。でもね、やっぱり過去の恋に甘えちゃいけないって思いが強くて。」

どこか、何故か。
それはいけない事だと、自分の中で勝手に線を引いてしまったから。

「その苦しさを吐き出させてくれたのが…高梨だった。」


あいつの優しさに、癒されたのに。
傷つけてしまった…。

それを思うと、胸がキュウッと痛くなる。


「じゃあ、今度はさ。」

私から身体を離した昂くんの手が、今度は両肩を包む。


「アイツといて、苦しくなったら俺んとこ来いよな。」

痛々し気に、微笑う昂くん。

…!

鼻の奥がツンとしてくる。

ーどうして。

そんな甘い言葉をかけてくれるの?

私はそんな風に想われるほど、いい女じゃないのに。

泣くのを堪えたくて、ギュッと目を瞑った後、空を仰ぎ見た。

冬の澄んだ空気で、星がよく煌めいて見える。

「…私を、これ以上ズルい女にさせないでよ。」

堪え切れなかった涙が一筋、頬を濡らした。


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